今日のトークは、去年キュー植物園を退職したばかりのフィリップ・クリブ博士による、学術調査旅行での体験談だった。博士は世界的なランの権威で、キュー植物園で30数年をすごし、ラン標本の責任者として、それまで放置されていたラン標本を分類整理し、名前をつけ、多くの学術調査に参加、それに基づいた多くの著作がある。
初めての学術調査は1976年。アフリカでの3ヶ月。「そこのランはもう既に調べ尽くされているから、行っても無駄だよ」と言われた、その地域に入った初日から、複数の新種のランを発見したという話から始まった。その後再びアフリカ(イエメン、エチオピア、カメルーンなど)、ニューギニア、ニューブリテン島、ソロモン諸島、ボルネオ、オーストラリア、ブータン、中国、ベトナムなどを訪れたそうだ。
わたしにとって興味深かったのは、珍しいランの写真。そしてそれらの調査旅行が危険と紙一重だったという事実。そのいくつかの例。
たとえば、初回のアフリカ(タンザニア)行では、車の外に出たとたんにライオンに出くわした話。沼地に咲くランを見に、深さ3-40センチの水の中を歩いて行ったが、そこをヘビが、広げた自分の両足の真ん中を泳いでいったという話。 ニューギニアでだったと思うが、原住民に重い槍で襲われそうになったという話。襲われていれば死ぬということだ。また木や山に登らなければならないが、それが危険と紙一重だという例として、過去にキューで博士号の勉強をしていた人が木から落ちて帰らぬ人となったという話。ボルネオでは、荷物を全部パックしてリュックに入れた同行者が、そのあと、そのリュックの一番上に10センチ以上あるサソリが入っているのに気づいた話。びしょぬれになった皮の登山靴を干して寝たら、翌朝、靴底が床に落ちている。皮の部分は地元の犬に食べられてしまったという話。オーストラリアでは干していた下着を食べられてしまったという話。ランを見に木に登ったら、運悪くハチの巣につっこみ、襲われて、ハチから逃れるために下の川に飛び込んだ人の話。この人は顔がかぼちゃみたいに膨れ上がったという。
あまりにも日常生活からかけ離れているので、それがとてもおもしろく興味深かった。
ニューギニアでだったと思うが、博士が珍しいランを見つけ歓声をあげた。”Wow!” 「わぁお!」。それから、「わぁお!わぁお!」ダンスが始まったという話。これは博士がランを見つけて歓声を上げるたびに、同行している原住民が「わぁお!」「わぁお!」と言ってひとしきり踊るのだそうだ。
そうそう、これも確かニューギニアでだったと思うのだが、ある部落では、ご先祖様をミイラにして保存、必要に応じて出してくるのだという。クリブ博士も、「わたしの曽祖父を紹介します」と、真っ黒のミイラを出してこられたことがあるそうな。その写真を見せてくれたが、これもびっくりであった。
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ほかにおもしろかったのはランの利用法。トルコでは地下塊をアイスクリームに入れると読んだことがあるが、ブータンでは、シンビジウムの花をカレーに入れるのだそうだ。苦味が出ていいらしい。タンザニアでは、Habenaria cornutaのだったかな?地下塊を食用にするのだそうだ。 また中国のグァンシ南部では、デンドロビウムを薬として利用するのだそうだ。
こういう話をとてもおもしろく聞くことができた。ただ、地理に疎いわたしとしては、中国のグァンシ南部なんて言われてもどの辺のことか全くわからない。地図で調べてみよう。
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マスデバリアを1鉢買った。